多治見市にいくつかある作陶滞在コースは、訪れる外国人を惹きつけてやみません。そこで国際的に活躍する4人のアーティストに陶芸の町多治見での日々について聞いてみました。彼らは朝のトレーニング、夜は工房での手料理、地元の温泉を楽しむなど、充実した毎日を送っています。今回お話を聞いた方々は、以前からよく知られているHo-Caと草の頭窯の作陶滞在コースに参加しています。1か月に及ぶ作陶コースは陶器づくりをきっちりと学べますが、参加者の皆さんは多治見で暮らす日常生活や文化的な違いにも魅了されているようです。
日々の習慣と工房の生活
作陶滞在の日常は、スイスから参加したアンドレア・ヒロキ・イシイさんのようにリラックスした朝から始まります。彼は毎朝8時台に起床、軽くエクササイズをしてから自分で作った朝食を摂り、工房に入ります。彼は1月の寒い時期の滞在だったので、味噌汁やラーメンに照り焼き、焼肉など特に体が温まる料理を作っていました。
Ho-Caの近くにある温泉で食べられる天ぷらはみんなの大好物です!
アンドレアさん:工房で朝のミーティングをして昼まで作業します。午後もまた粘土に戻って5時までやりますが、仕上げなければいけない作業がある時はそれより遅くなることもあります。ストレスもなく、とても快適な環境ですよ。
アンドレアさんは近くの温泉にもよく訪れ、温泉のレストランでのディナータイムも楽しんでいました。温泉は参加者全員のお気に入りスポットです。このようにこのカジュアルな作陶滞在の日常は心休まる時間とクリエイティブな時間を同時に体験することができ、多治見の生産性と静寂の融合を体現しています。建築家であるアンドレアさんは地元の人たちが古い建物を保存・修復して使っていることに関心を持ち、その中でも特に茶室「かまわ庵」が気に入ったようです。これは多治見の中心部にあり、建物には焼き物の窯を作るためのレンガでできた壁や美濃和紙などが使われ、この地域の陶磁器産業を称えた特徴的なデザインが施されています。また彼は、ながせ通りにある玉木酒店は歴史的建造物で保存状態もよく一見の価値があると話してくれました。
Ho-Caのコースに参加している2人目はイタリア出身のステファニア・カターニさん。このスタジオに滞在中、日本料理にも挑戦しました。「すき焼きやパスタの夕ごはんもみんなで楽しみましたよ!」と彼女は話してくれました。他の参加者と同じく、彼女も温泉を気に入り、そこで夕食を摂ることもありました。お昼休みにはサイクリングしたり、かねてより行きたかった岐阜県近代陶芸美術館や美濃焼ミュージアムを訪れたり、瀬戸市まで足を伸ばし陶芸用具の買い物にみんなと出かけたりしました。一方、工房で手びねりの伝統的な茶碗や急須の作り方を学ぶのは、彼女にとって初めての体験でした。
Ho-Caの作陶滞在コースではセラミック・パークにある茶室で茶道体験が行われます。この茶室は懸舟庵と名付けられており、英訳すると "The Anchored Boat(停泊中のボート) "と、まるで水面に浮かんでいるように見えるモダンで美しい造りなのです。
女性参加者2名は、この日のためHo-Caで美しい着物を着せてもらいました。床の間には季節を詠んだ句が掛けられており、その下に柴田先生自ら生けたシンプルな生け花も飾られています。もちろん生けられた一輪の紅い牡丹はこの季節のお花です。
多治見の町を探検
今回Ho-Caのもう一人のグループメンバー、カナダ出身のソフィー・ヴァン・ダーレンさんは前の日に夕食に出かけ、日本の家庭料理の定番オムライスを味わったと教えてくれました。その他の日にも多治見名物のウナギを食べ、コメダ珈琲で食後のコーヒーを飲んだりと楽しんでいるようで、多治見のおやつの五平餅も試すつもりだと言っていました。ベジタリアン・ヴィーガンの方もよく作陶滞在コースに参加していますが、五平餅はそういった方にも喜んでもらえるメニューでしょう。五平餅は市内のいろんな店やレストランでよく売られています。
ソフィーさん:私の部屋は工房と同じ建物にあってとても便利なんです!滞在スタートから20日間は焼成の準備にすべての時間を費やし、とても慌ただしい毎日でした。とにかく滞在中に全部完成させることに集中したんですよ!すべての作品が窯の中に入ってやっと街の探検に出かけられました。それで多治見について色んな事を知りました。
ステファニアさんとソフィーさんは町を探検したとき嬉しいサプライズに遭遇しました。
今回一番若い彼女は町を探索し、活気あるアートシーンに出会い、知る人ぞ知るような場所を見つけ、この多治見にもアートの最前線に触れられる部分があることに驚いたようです。
ステファニアさん:私たちは笑ってしまいました。だって町で出会った人たちもみんな陶芸家だったんですから!
ソフィーさん:ここで得た知識や技術は他ではなかなか学べないものばかりです。特に様々な窯について学べて楽しかったです。
窯をとおしてタイムトラベル
一方、草の頭窯の作陶滞在コースにはアメリカからベル・チェンさんが訪れていました。草の頭窯の青山双渓先生は以前工房の近くの丘に大きな穴窯を建てましたが、彼女はその窯焚きの機会に恵まれました。昔ながらの穴窯では夜中も窯に張り付いて焼き続けるので、そのスケジュールはHo-Caでのコースとはずいぶん違います。この穴窯は大名物とされている白天目茶碗を再現するプロジェクトの一環として作られたもので、青山先生のライフワークでもあります。彼は500年前の白天目の製法を復活させ、多治見市の無形文化財に認定されました。
アメリカで医師として働いているベルさんは、多治見では穴窯に向かい陶器を焼いていました。窯焚きは1週間近くに及び、四六時中窯に薪をくべるため、夜中も交代で焼き続けます。彼女に草の頭窯での滞在について話してもらいました。
今まで草の頭窯のコースに参加した他の人たちと同じように、彼女は毎朝滞在するアパートから小名田の工房まで歩いて通いました。工房までは数キロあり、朝夕のバスもありますが、滞在する多くの皆さんは歩いて町を散策しながら通うのを好むようです。
ベルさん:先生たちはとても控え目で、最初は礼儀正しすぎるくらいでした(苦笑)。ですのでもっと意見を返してほしいとお願いしました。そのあとはすべてがスムーズにいきましたよ。作陶については最初は日本の伝統的なスタイルを中心にやりましたが、そのあと中国のスタイルも教えてくれました。
ベルさんは台湾系中国人ということで、青山先生は彼女が中国の焼物にも興味があると思い、一緒に中国陶器の本を何冊か見てデザインを決めたそうです。
ベルさんは滞在中の作陶以外の時間についても色んなことをして過ごしたようで、ある晴れた日にはいちご農園にも連れて行ってもらっていました。
ベルさん:イチゴを摘んだり、ピザを作ってもらって、とても楽しいひと時でした。週末には美術館や博物館にも行きましたし、それからお料理もしたんですよ!これは私にとってとてもうれしい体験となりました!!ここで野菜をたくさん食べて体の中から健康になったと思います。そして青山家の皆さんを自分の家族のように感じています。ですので皆さんと離れるのは辛くなってしまいました。
昔のスタイルの薪窯の熱と薪の煙の匂いはベルさんの記憶に深く刻まれました。その記憶はまるでタイムトラベルのように、はるか昔の多治見の陶工たちの光景とシンクロします。その当時も今と同じように薪を燃やすパチパチとした音が森に響くなか、彼らは武将たちのために優れた焼物を作り暮らしていたことでしょう。
参照
五平餅: 多治見の食文化
- 起源: 様々な説があるが、江戸時代中期(1651年~1745年)に木曽・伊那地方の山に暮らす人々によって作られていたものが起源というのが濃厚である。神道の神に捧げる「御幣」にちなんで名付けられたとも、「五平」という名前の人がこの料理を作り始めたとも言われている。
- 伝統的な作り方:
- うるち米を潰し、わらじ型にして、割りばしに練りつける。
- くるみ、味噌、みりんの甘辛いペーストのタレを塗る。
- 炭で香ばしく焼き上げる。
多治見の温泉:天光の湯
- お湯について: 全国でも希少な天然のラドン泉を使用している。別名「吸う温泉」とも言われる天然のラドン泉は肌に触れるだけでなく蒸気を吸い込むだけで、血液中の尿酸や中性脂肪・コルステロール・窒素酸化物等の不要物を体外に排出し、細胞の活性化・免疫力や自然治癒力を高め、新陳代謝を促進させる効果が期待できる。
- 入浴エチケット:
- 湯船に入る前に全身を洗う。
- 水を汚さないように長い髪は結ぶ。
- ロッカールームに戻る前にハンドタオルで水分を拭き取る。
記事で言及した建築物について
茶室 かまわ庵
- 素材: 再生窯レンガ + 美濃和紙の壁
玉木酒店
- 建築: 大正時代の建築。木製の棚、ガラスの引き戸、天井の下には年代物のビールポスターが貼られ、昭和の面影を残している。