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​多治見の中の陶器の町

Part 03 市之倉・高田/小名田

イラスト出典:多治見市図書館郷土資料室

市之倉・小名田 / 高田 ― 土と炎で紡がれた三つの小さな世界

多治見の風景が、土と語り合っている姿を知りたければ、 市之倉から始めて、小名田、高田を回ってみるのがおすすめです。 この三つの町はどの町も 山の背にあり、川と細い道で作られていますが、何百年ものあいだ思いを土に託して焼き続けてきました。
地図で見ると地味な小さな集落ですが、じっくり見るとまさに日本陶磁史のポケットサイズ版です。室町時代の煙から、昭和の煙突まで、時代ごとの息吹がここに凝縮されているのです。
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市之倉 盃の中に広がる物語

今回の取材は、市之倉さかづき美術館で、ちょっと控えめな小さな作品の前に立ち止まったところから始まりました。それは加藤才平作の「染付芋之葉文玉露碗」で、碗の側面にイモの葉がそよ風に震えている様子が描かれています。
一瞬、美術館の中にいるのではなく、村はずれの畑の真ん中に立っているような気がして、葉っぱたちが風とひそひそ話しているイメージが思い浮かんだのです。この作品は掌に収まるほど小さいのですが、その生命すべてを包み込むような大きなスケールを感じます。
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染付芋之葉文玉露碗 作:加藤才平
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日本語で「盃」といえば、酒を飲むための小さな器を意味しますが、この「染付芋之葉文玉露碗」は同じように小さく、作品名にもあるように「碗」と名付けられ、それに見合った品のいい佇まいをしています。
古の時代、玉露茶は良い酒と同じように日常のものではなく、稀少で特別な存在だったことを表しています。
こうした小さな器は、少しの量で深い味わいを楽しむために作られ、香りをじっくり引き出し、まるで何かの儀式のようなゆったりとした時間を促します。
結婚の盃やお正月のお屠蘇のように、手から手へ、唇から唇へ、そして人から神へと少しずつ回しながら味わうような感覚が引き起こされます。量ではなく、その「つなぐ」丁寧な瞬間こそが、この器の本当の価値なのです。

市之倉さかづき美術館は、まさにこの「小ささ」への愛を形にした場所です。
棚には何千もの盃が静かに並び、落ち着いたもの、華やかなもの、思わず笑ってしまうようなデザインのものまで展示されています。
磁器の器は下から光を当てると、極薄の素地が透けて、太陽にかざしたような美しい輝きを放ちます。  多くは伝統的な柄ですが、中には戦時中の愛国的なモチーフのもの、新しい飲み方や飾り方に合わせた実験作など、陶工たちが大胆な工夫を凝らしたものも見られます。遠く離れた小さな村が、時代の移り変わる好みに置いて行かれないよう、様々な挑戦を続けてきたことが伝わってきます。

市之倉がこうした小さな器を作るようになったのは、決して必然ではありませんでした。
その辺りにフォーカスして話していきましょう。
江戸時代、この多治見地域の焼物は「親荷物」制度が導入されていました。それは効率的な生産と競合倒れを防ぐ意味合いもあったようで、誰がどこで何を焼くかという取り決めがされていました。市之倉は「錆徳利」(錆釉徳利)を親荷物と定められていました。これはまだ冒頭部で紹介したような磁器の焼物ではありませんでした。
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磁器技術が広がり、人々の好みも移り変わる中で、市之倉は戦略的に舵を切って行きます。
19世紀初頭から、ここに新しい製法の窯が立ち、有田風の磁器を追求し始めました。
数十年もしないうちに、石器や磁器が古い土器を押しのけて主流になり、山の斜面にあって運搬が大変で、磁器の土も限られている市之倉は、生き残るために「小さく上品なものを生産する」道を選びました。  盃、煎茶セット、箸置き…土の量は少なくても、手間と工夫と想像力がたっぷり詰まった、そんなものに特化したのです。
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市之倉の最も名高い盃を特徴づける繊細な絵付け技法は、19世紀初頭に京都と瀬戸から来た職人たちによってもたらされました。
彼らが伝えた具体的な技法は「染付」という白い磁器の地に呉須(コバルト青)で模様を描く技法です。
この様式は、京都と瀬戸地域の洗練された陶磁伝統に深く根ざしたものでした。
これらの職人たちは、京都の京焼や清水焼の伝統で何世紀にもわたって磨かれてきた技法を伝えました。
その伝統自体は、17世紀に茶の湯文化が花開いた時期に大きく発展したものですが、その技術は極めて精密で、使用する筆の先は一本の毛だけの細さでした。
このレベルまでの洗練こそが、市之倉の盃を技術的に際立たせた中心的な要素です。
この話については市之倉の熊野神社を訪ねてみてください。
そこには約150年前に京都方面から来た絵付け職人たちによって描かれた絵天井があり、その技術の高さを見ることができますよ。
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染付蜻蛉漢詩文玉露碗  作:加藤五輔

​明治中期になると、市之倉周辺にはおよそ120もの窯が煙を上げ、ぱちぱちと音を立てながら稼働していました。
その中で、数人の名だたる職人たちが一つの「家元」的なスタイルを築き上げていったのです。  透き通るような、ほんのり乳白色を帯びた素地。1ミリにも満たない器の薄さ。そして、極めて繊細な染付の絵付け――これらが、京都の清水焼とはまた違う、市之倉ならではの洗練された美しさを生み出しました。  加藤五助や加藤才平といった名前が特に知られていますが、彼らは無数の名もなき職人たちの技の頂点に輝いているような存在です。
数多の職人たちで確実に磨き上げられた技術の層で美しい作品が出来ているのです。
そんな盃を手に取って、そっと掌に収めると、ただの飲み物を入れる器ではなく、市之倉の職人たちの「思い」がそこにあるように感じられます。
少ない土、運びづらい山道などに表される地理の厳しさ、経済の制約といった条件に対する答えが、わずか数グラムの回転する土に凝縮されているのです。
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市之倉さかづき美術館の棚には、何千もの盃がぎっしりと並んでいます――中には、盃のふりをした茶碗もちらほらと紛れ込んで微笑ましい気持ちにさせられます。
多くのものは伝統的な文様を忠実に受け継いでいますが、時代を追うごとに、作り手たちが少しずつルールを柔軟にし、その技術を伸ばしていく様子が、静かに読み取れます。それは新しいお客様のために、さりげなく新しさを生み出そうとする工夫です。
特に戦時中のような、物資が乏しく、装飾にも検閲の目が厳しかった時代でさえ、飾り文様は巧みに工夫を凝らし、決して諦めずに美しさを守り続けていたことがわかります。
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小名田 灰釉から白天目へ

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​さて市之倉から東へ向かうと、小名田にたどり着きます。
そこには白山神社があり、急な石段を登ると、足元に古い焼物の欠片が厚く積もった土が広がっています。
昔の碗、壺、瓦のかけら…何世紀も前のものがそこにあります。ここでは、過去はガラスケースに収められて埋もれているのではなく、足元に堂々とばらまかれています。
まるで靴に挟まったり、誰かの記憶に残ったりするのを待っているようです。



小名田の白山神社は、多治見でも考古学的に重要な陶磁遺跡の中心に位置しています。
この神社の周辺は、古い窯跡が重なり合う土地で、土の中から歴史が静かに顔を覗かせている場所です。ここで特に注目されるのが、草の頭窯の青山双溪さんです。
青山さんは、白山神社の近くの土を丹念に調べ、大名物である白天目(しろてんもく)を再現できる数少ない土の一つだと証明しました。
今では国の重要文化財に指定されている白い天目茶碗 - 白天目は、茶の湯の世界で長く憧れの的だった器です。そのオリジナルに近い土が、この神社周辺のわずか二箇所からしか得られないというのです。
その再現に適した土を、地元の土の中から特定した青山さんの研究は、この土地の長い陶磁の歴史を改めて明らかにするものでした。白山神社の石段を登る時の足元の欠片や土の感触が、数百年もの間、この地で土と炎が交わり続けてきたことを静かに物語っています。


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白天目(作:青山双溪)と茶道具

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戦国時代では強力な戦国大名、そして後に台頭した商人たちが、茶の湯の文化を支える洗練された茶碗や茶道具の市場を作り出しました。
茶の湯は当時の上流階級の文化の中心にありました。初期の器は丈夫な石器が主流でしたが、次第に色が明るく軽やかなものへと移っていきます。
これは茶の湯全体の流れとも重なり、淡く輝くような陶器が好まれるようになった時代背景を反映しています。中世の美濃 - 今でいう岐阜県東濃地方にあたるこの地域では、仏教の僧侶たちが重要な役割を果たしました。京都を拠点とする禅寺のネットワークを通じて、茶の湯の作法や茶道具を各地に運び、広めていったのです。寺院が結ぶ道は、文化そのものを運ぶ静かなルートでした。


有名な僧・夢窓疎石が、1313年に当地の領主・土岐頼貞の招きを受けて、多治見に永保寺を開いたとき、この地域は京都を中心とした禅寺のネットワークにしっかりと結びつきました。
僧侶たちの往来が活発になり、茶の習慣や、京都から持ち込まれた天目茶碗が、この丘陵地帯へと流れ込むようになりました。寺院ではこうした器を大切に扱い、旅する僧たちが田舎の寺々へ持ち運んだことで、地元の陶工たちには優れた見本が与えられたのです。またそれは彼らにとって憧れの対象でもありました。
京都の洗練された茶の湯の理想が、この地にも届き、地元の土と炎を通じて受け継がれてくことになるのです。永保寺の開創は、この地域の陶磁文化に京都の影響を強くもたらした出来事でした。



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小名田の草ノ頭窯の作陶滞在に参加している女性が、自分で初めて手掛けた「引出黒」の茶碗をじっくりと眺めています。この茶碗は、茶道でも好まれて使われることの多い、つや消しの黒く焼き上げた焼物です。

茶の湯の大家である村田珠光や、後に千利休が、左右対称で完璧な唐物よりも、少し粗野な日本の器を好むようになった頃、小名田の集落の窯はそういった好みにちょうど良い条件が揃っていました。陶芸家の青山双溪さんは、土の分析、窯跡の調査、実験焼成を基に、現在徳川美術館に納められている白天目茶碗 - 茶の世界で長く尊ばれてきた、白く輝く茶碗 - が、おそらくここで地元の白い土を使って作られていたという見解を述べています。
その生産時期は室町時代後期、16世紀頃、桃山時代へと移り変わる境目に位置づけられます。その後、日本は戦国の混乱の時代に入っていきます。そしてこの地の陶磁史にも大きな転換期が訪れるのです。
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仏教と焼物には、茶の湯と禅を通じて深い繋がりがあります。ここ小名田では、窯焚きをする人々が、窯の祈願(窯入れの際の神事)を受け、土と炎に祈りを捧げる機会があります。


応仁の乱(1467〜1477年)とその後の戦国時代、尾張国(瀬戸の名窯があった場所)では繰り返される戦乱と破壊が続き、瀬戸辺りの陶工たちは山を北に越えて美濃へと移りました。
彼らは釉薬の技法や轆轤(ろくろ)の技術を携えてやってきて、その技術はこの地域に根付きました。この移住は美濃の桃山陶に代表される焼物の黄金時代をもたらした出来事だと広く認識されています。桃山時代を象徴する志野、黄瀬戸、瀬戸黒、織部といったスタイルが生まれたのも、この流れによるものです。それらの技法は今も消えることなく残っています。
今日、小名田を訪れる人々は、地元の陶芸家から志野や織部を学んでいます。
五百年前、誰かの荷物と一緒にやってきた技を、手から手へと受け継ぎながら、遡るように触れているのです。こうした歴史が、静かにこの土地に息づいていることが、小名田の土や窯の風景から伝わってきます。



水月窯の登り窯の360°画像。水月窯は、2基の窯、アトリエ、付属建物を含み、1946年に荒川豊蔵(1894–1985)によって設立されました。

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​厳密には小名田ではありませんが、町のちょうど境界線辺りにある窯を紹介しましょう。
水月窯(すいげつがま)は、1946年に荒川豊蔵(1894〜1985)によって開かれました。
彼は日本を代表する伝説的な陶芸家の一人で、志野と瀬戸黒で重要無形文化財技術保持者(人間国宝)に認定されています。

​荒川は、桃山時代から初期江戸時代の志野や織部の焼物が美濃地域で作られていたことを発見しましたが、この発見は単なる技術的な再現にとどまらず、失われかけていた美濃の桃山陶の歴史を改めて明らかにしたものでした。
水月窯は今も小名田にあり、荒川豊蔵の遺した技と精神が、静かに受け継がれています。



高田 徳利と煙突と、時代のルール


​高田の古い墓地の近くに、陶祖碑があります。
「陶祖碑」という名は「陶磁の祖」と「石の碑」を組み合わせたもので、1616年にここで最初の窯を開いた加藤与左衛門景直を祀った石碑です。
この碑を見ると、この地で火に携る技術が単なる仕事ではなく、神聖な使命に近いものとして考えられていたのではないかと思い起こさせてくれます。


焼物と仏教の繋がりは、欧米の人々には少し意外に感じられるかもしれませんが、日本ではその考えがとても深くあります。
加藤与左衛門景直のおじいさんは景春で、瀬戸の陶祖・加藤四郎左衛門景正(かとう しろうざえもん かげまさ)の10代目の子孫にあたります。
景正は鎌倉時代に、宋王朝(現在の中国)へ渡り、有名な道元禅師とともに曹洞宗の禅を日本に伝えた後、現地で焼物の技を学んだとされています。

陶祖、加藤与左衛門景直以前に小名田・高田地域に作られた最も古い窯跡は、鎌倉時代にまで遡ります。
これまで見てきたように、陶祖以前も小名田では上流階級に人気の茶の湯のための優れた茶碗が作られていました。歴史の流れによってこの地の陶磁史の転換期になりましたが、高田の土と炎は静かに受け継がれ、徳利をはじめとする酒器の生産へとつながっていったのです。


景直がここにやってきたとき、すでにこの地には焼物を作る技術がありました。
しかし彼が来たことによって、小名田に新しい焼物技術が発展した流れと同じ流れが高田にも起こったのです。応仁の乱と戦国時代に、尾張から北へ追い出された陶工たちが、瀬戸の磁器技術を美濃にもたらしました。高田はこの流入で、白い土を精密に扱う方法を知ることになります。
この地域特有の白粉土 - 液体を通しにくい、非常に密度の高い地元の白い土 - と組み合わせることで、高田の窯は特定の製品に非常に適したものになりました。
それは徳利、細い首の酒瓶です。この徳利が次の二世紀にわたって高田を代表するものとなったのです。
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江戸時代の中頃、焼物の量産が本格的に始まります。
人口百万人の江戸や、京都・大坂の商人たちが、漏れない酒容器を大量に必要としていました。
高田の土はまさにそれにぴったりの原料で、高温で焼き締まり、淡い色で、液漏れを防ぐ性質を持っていたのです。
窯は市之倉や小名田と同じように、斜面に沿って作られました。上へ登る熱の性質を生かして、窯のなかで火が効率的に回るようにするためです。高田は、日本でもっとも窯が密集した地域の一つでした。それはどのくらいかというと、中世から近代にかけての焼成跡が、およそ4キロメートルの半径内にびっしりと詰まっているほどです。

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​1800年頃の記録では、高田は徳利を「親荷物」と呼ばれる特産品として定めた地区の一つとして登場します。一見穏やかな名称ですが、実際にはかなり強制的な取り決めでした。尾張藩は、多治見地域の窯が何を生産し、何を売るかを厳しく管理していました。
製品は藩公認の名古屋商人を通じて流通させ、各地区に専売品を割り当てることで、藩の収入を守りつつ、窯の秩序を保つ仕組みだったのです。
市之倉には錆釉の盃が、高田には徳利が割り当てられました。
ただし、高田は時折この線を越えて一ノ蔵の領域に手を出したため、かなり揉め事になったこともあったそうです。こうした藩による統制は、単なる規制ではなく、窯の生産を効率化し、市場を安定させるためのものでもありました。


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​この近代化の残滓から坂を少し登ったところに、大正時代の登り窯があります。それは、かつて古い伝統と新しいものが一時的に共存していたことを物語っています。
煙突と登り窯の間に立ってみると、窯入れと焼成の間の緊張感、薪の火を夜通し守り続ける時間や、成形された陶器が延々と続くコンベアベルトの番をする時間の間の緊張感など、様々な思いを感じ取れるような緊張感があります。


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この古い工場の煙突は現在はここだけになってしまいましたが、かつては数十もの煙突がありこの一帯の風景を象徴していました。

そして20世紀に入ると、その規模は劇的に変化しました。新しい石炭焚きの工場が、古い薪窯の隣に次々と建ち上がり、轆轤成形から型成形、そしてジガー・ジョリー方式による大量生産への移行を告げたのです。
今も残る一つの工場では、高い煙突がまだ空を掻き分けていますが、中に入るとコンクリートの床を木々が突き破り、錆びた機械の間を木々が生い茂っています。かつて煤と喧騒に満ちていた場所が、ゆっくりと緑に取り戻されつつあるのです。全盛期には、こうした工場において熟練の労働者たちが大量の「高田焼」を量産していました。徳利やカップ、食器類は「美濃焼」として日本全国、さらには海外へと出荷され、地元の名称が輸出ブランドへと変貌を遂げていきました。
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​高田の川沿いには、高田特産の酒や焼酎の徳利が並べられたモニュメントがあり、それはまるでこの歴史を立体的に物語るカタログのようです。それぞれの徳利は、あの古い取り決めに定められた標準的な形を忠実に守りながら、今や遥か昔に消えてしまった手仕事、注文、そして祝いの記憶を宿しています。
今日でも高田には現役の窯や陶器関連の事業が残っていますが、過去の記憶と共に歩んでいます。すでに役割を終えてしまった煙突に、コウモリが巣くう古い窯に、そして今もなお「土を火の中に入れる」という勇気を示した加藤与左衛門兼直に感謝を捧げる「陶所碑」に、その過去が刻まれているのです。
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この徳利には、「走り続けた消防人生 鬼教官 国弘の酒」と刻まれています。

最後に、高田の工房の一つが最近制作した徳利をご紹介します。この徳利は退職祝いの贈り物で、締めくくりにふさわしい、実に素晴らしい一品となっています。これは日本人の心に深く根付いた伝統であり、特に消防士や軍人といった、のんびりと歩むのではなく全速力で駆け抜けるような職業において、その意味は一層深く響くものがあります。そこに刻まれた文章がすべてを物語っています。「走り続けた」という言葉は単なる飾りではありません。それは、常に次の出動要請に応え、息をつく暇もなく動き続け、絶え間ない動きの中で過ごした職業人生への、静かに心を打つ賛辞なのです。その横には「鬼教官」と記されている。一見すると恐ろしい響きですが、日本では、指導した生徒たちから「鬼」と呼ばれることは、他の人々から「非常に優れた教師」と認められている言葉でもあるのです。
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風に揺れる一枚の葉


​結局のところ、今回紹介した三つの集落はすべて、あなたを加藤才平の玉露碗に描かれたあの小さな植物へと連れ戻します。イモの葉がそよ風に揺らいでいる、この風はその作品の中だけの世界にあるものですが、なぜか自分も感じてしまうようなそんな小さなドラマが、宇薄さ1ミリにも満たない磁器の碗の中で静かに繰り広げられているのです。
地上では葉が短く華やかな舞いを踊り、地下では子芋たちが、暗闇の中で控えめにそして確実に膨らんでいきます。控えめで頼もしく、大げさな振る舞いをすることなく、人々に滋養を与えるという静かな働きを続けているのです。


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禅には、この瞬間、この茶碗、この一口、このそよ風こそが、最初であり最後であり、あなたが真に手にする唯一の瞬間であると説いています。茶道ではこれを「一期一会」と表現します。一度の出会い、一度の時、二度と同じようには訪れない。
市之倉の空へ立ち上る窯の煙、小名田の茶碗、高田の煙突、そしていつか自分の作品を手に取るであろう人々の手を意識しながら、すべてを意識しながら、才平はあのイモの葉をそっと描いたのでしょう。
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ちょうどいい具合に手に取ると、この小さな器は、3つの村、数世紀にわたる時、そして数え切れないほどの集まりを、一つの連続した「差し出す」仕草と「受け取る」仕草で結びつけます。それは、この丘陵地帯において、粘土は単なる素材ではなく、一つの「言葉」であることを思い出させてくれる。そして、その言葉は、良質な日本酒のように、分かち合うためにあるのだ。
そしてその言葉は、良い酒と同じように、分かち合うためにある。三つの小さな集落を巡る旅は、こんな一枚の葉の揺らぎで、静かに幕を閉じます。

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今回紹介したところ

市之倉

  • 市之倉さかづき美術館 — 江戸・明治時代の酒杯や煎茶道具が1,500点。まず最初に訪れたい必見のスポットです。
    幸兵衛窯 — 1804年創業。幻の名陶ラスター彩を復興させた「人間国宝」加藤卓男(1917–2005)の窯。現在は8代目の加藤亮太郎がここで焼成を行っています。
    熊野神社 -- 絵天井が見られる丘の中腹の神社。市之倉の陶磁史と精神的なつながりを持つ場所です。

小名田

  • 白山神社 — 鎌倉時代にまで遡る陶器の破片が散らばる土の上に、神社へ登っていく石段が敷かれています。
    水月窯 — 「志野」と「織部」が美濃で作られたことを証明した、人間国宝・荒川豊蔵の窯。
    草の頭窯 — 地元の木節粘土を使った陶芸滞在を開催。見学も歓迎します。

高田

  • 陶祖之碑 — 昔からの墓地の近くにある石碑で、1616年に高田で窯を開いた加藤与左衛門景直を称える碑です。
  • 陶人舎窯 -- 廃墟となった工場と登り窯が並んで建ち、たった2つの建造物に高田の陶芸の歴史の全貌が凝縮されています。 
  • 徳利のモニュメント — 川沿いに作られた高田の特産品、徳利のモニュメント。これは、かつての「親荷物」という生産体制の歴史を象徴しています。

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