陶磁器の本拠地でグランプリを目指せ!
国際陶磁器フェスティバルMINO 2020
UPDATE
2020年開催予定の国際陶磁器フェスティバルは延期となりました。詳細が決まり次第お知らせします。
加藤智也さんは私たちの家からすぐ近くの高田町の丘に住んでいます。とても狭く曲がりくねった急な登り坂がたくさんある町で、地元の人ですら気をつけて運転しないといけません。少し前にも、軽トラックが脱輪してしまい、道から半分落ちそうになっていました。この町に初めて来た人はよく迷ってしまいますが、加藤さんの工場に近づいてきたら、彼がここで制作しているとすぐに分かることでしょう。たくさんの不思議なオブジェクトが工場の周りのあちこちに置かれていますから!
加藤さんは2017年第11回国際陶磁器展美濃において自身の作品「Topological Formation」で金賞を受賞しました。来年(2020年)この大規模な陶磁器イベントが再び開催され、陶磁器の芸術やデザインを祝います。世界中の人々が賞金500万円のグランプリを競い、これに合わせて近隣の地域では多くのイベントや展覧会が開催されます。きっと興味深いこともたくさん見つかるでしょう。日本で陶芸を楽しみたいなら絶好のチャンスです。
2019年12月の肌寒い日に、加藤さんの制作活動についてインタビューを行いました。
この日、加藤さんは工場の職人と忙しく作業をしていました。47歳の彼は日本人にしてはとても背が高く、深く優しい声で喋ります。彼は私たちに挨拶をした後、もう一つの工場の方に案内してくれました。そこには床から天井まである棚に数え切れないほどの陶器が並んでいます。それらは彼のアート作品にしてはちょっと違うもののようでした。「これが私の仕事なんです。結局稼がなくてはいけませんから。」と加藤さんは笑いました。
コンクリートでできた床の小さな部屋に案内され、彼は私たちのために椅子を用意してくれ、輪になってインタビューを始めました。「若い頃はこの仕事をしようとは考えたこともありませんでしたよ。パイロットのなろうと思い、何度か試験を受けましたが、飛行機は怖いと感じたのです。そんな時、誰かが陶磁器業界に入らないのは残念だと言いました。そうのように言われたのはびっくりしましたが、私の父は陶磁器原料を生産者だったので、そういう考えは私にとっておかしいことではなかったと思います。」と彼は話を始めてくれました。
「当時私は九州南部の有名な陶器産地の有田に住んでいて、そこで工場を見学に行きました。そこの仕事は金型に粘土を流し込んで焼き上げ、金型を取り外すことでした。また粘土を流し込んでとその繰り返しでした。それは陶磁器を作る基本的な手順です。この仕事は私にとってはピンときませんでした。」
「そんな時父が多治見にある意匠研究所を勧めてくれたので、そこに通うことにしました。そこでは色んな先生がいることに驚きました。ある先生はプロダクトデザインに精通していて、ある先生は陶器美術に傾倒しているといった具合でした。私はここに入学し、2年間色んな先生方のたくさんの話を聞く機会がありました。全く違う背景の人たちの陶器の話は面白く、熱心に聞いていましたよ。純粋に研究者の視点で誰かの意見に耳を傾け、純粋に芸術に専念している人たちと話すことが出来たのです。」
「最初に試した制作がとても上手く行った時のことをよく覚えています。多分私の作っているものが遊び心があるように見えたようで、先生がそれに気付き、私のところにきていいました。『誰がこれを作ったの?』と意味ありげな声でに聞いてきたのです。『すみません、私です。』と言うと彼は『うん、面白いね、続けていきなさい!』と言ってくれたのです。それから数年間は実家の工場と学校を行き来しながら、作品を作ることに必死でした。私は工場で父と仕事をし、その合間に自分の作品作り(外に置かれている黄色の作品など)に没頭していました。」
「私は意図して派手なものを作ろうとはしていませんでしたが、自分の手で形になっていくのが本当に面白かったのです。『どこまで大きくできるのか?』ともっともっと大きなものに挑戦し、そしてそれが倒壊するまで大きく作っていきました。それが自己表現の形だったかと聞かれれば、そうだと思います。一方で私は自分の作品に対する他の人たちの意見には全く興味がありませんでした。」
彼は手で輪を作りながらこう話しました。「私の作品作りのテーマは単純なことです。いつも円状の基本的な形から始めて、それがどこへいくのか確認しているのです。ある時はこちらへ、またある時は違う方向へという具合ですね。ここ多治見で開催された2017年の国際陶磁器展美濃に出展した作品でも同じ方法で作りました。その時も形を与えるという概念はなく、アーティストとして20年間やってきたのと同じように土にまかせて作っていきました。『ここまでは大きく出来たけれど、どうしたらもっと大きくできるか?』と自分に問いかけ、潰れないようにサイズを大きくする方法を試していきます。これは私独自のやり方です。もちろん陶芸を始めた当初は意匠研究所の先生の作品に影響を受けましたが、取り組んでいくうちに誰かの真似をするよりも、自分独自のやり方で作っていく方が上手くいくことに気がつきました。」
高田町は古くから焼物の歴史が続く町です。そのことは加藤さんに何か影響を与えたのでしょうか?「皆さんが思うこととは違うかもしれませんが、それはありますよ。私の先祖は400年前ここで志野焼を作っていたそうです。私はその足跡をたどろうとはしませんが、彼らの残したものにたくさんのことを気付かされます。私はいつも昔の陶工たちはどのように釉薬を使って、それがどんな効果をもたらすのかということを本当に知りたかったのです。日の中での釉薬と焼物の素地の変化にいつも夢中になってしまいます。焼物は縮んだり、ヒビが入ったりと様々な変化が起きていくのです。それは素晴らしいインスピレーションのもとになります。」
加藤さんはどうやら丸く膨らんだ形を好んでいるようにみえました。それはどうしてかと不思議に思い、聞いてみました。「そういう形が私の好みのように見えたかもしれませんが、実際にが物理的な問題と関係しているんです。丸という形は大きな物体の構築を可能にします。もちろん丸だけが可能なわけでは無いですけどね。例えば雲の形がいいなぁと思ったとします。そこで空の上から見た雲を見て、波状の形で作品を作り始めますが、物理的に作品が崩れないようにしなくてはいけませんよね。」と言って彼は床に形を描きました。「もしこういう形(写真左図参照)を作ると簡単に潰れてしまいますが、このように(写真右図参照)作ると形を保てるのです。」
「これを彫刻制作の土台と考えてください。この上に作り上げていくと強い構造になり、崩れにくくなります。作っている中で形をひねると波打ち、自然と蛇のような形になります。これが作品の造形の成り立ち方です。」
一つのものを作るには大変な時間が、少なくとも4ヶ月ほどはかかります。『Topological Transformation』の基本の形を完成させるのにも6ヶ月かかったそうです。こんな風に時間がかかるので、制作の後半段階で事故があったりするのは本当に辛いことでしょう。加藤さんは制作段階のなかで多くの失敗を経験しました。「ある時はクレーンから作品が落ちてしまいました。その時は大きな音を立て、窯の上に落ちてバラバラになってしまいました。また別の時、ちょうど焼き上がったところだったのですが、窯から変な大きな音が聞こえました。中を覗いてみると、作品の一部が壊れていました。こういう事故はその後も続きますが、これも創作活動の一部だと思っています。」
加藤さんは作品作りを何かのコンテストなどに合わせて計画するわけではないようです。「作品制作はずっと続けていますよ。いい作品ができた時にちょうどコンテストの締め切りがあれば、エントリーします。」と話してくれました。彼はまた、海外でのコンテストでも何度も賞を受けています。「私は幸運なことに、イタリア、ファエンツァのコンテストで2回グランプリをとりました。韓国でも2回、台湾では1回受賞しています。逆に国内ではあまり評価されないですね。2017年のコンテストは私が日本で勝ち取った唯一の賞でしたよ。」と彼は笑いました。
「私の作品は日本ではあまり評価されないですね。」と笑いながら話してくれました。
なぜ彼が海外で高い評価を受けているのでしょう?これについて彼は次のように考えています。「私と同じようなやり方で作品作りをしている人は他の国ではあまり無いようです。外国人アーティストはコンセプト作りから始める教育を受けている傾向があり、彼らの作品を見ると、アイデアを形にしようとしているように感じます。私のように興味深い形になるまで、自然にまかせて作り上げていく西洋人はあまりいません。私たち日本人は土の感覚に敏感です。土の感触や土に寄り添って作っていくことを楽しみます。生き物と遊んでいるような感覚ですね。土は触っている時だけでなく、焼いている時も動いています。それから乾いていく時もですね。」
Very few Westerners just let go and create until they arrive at an intriguing form.
高田町は昔からこの地の焼物に使われてきた、青みがかった良い粘土に恵まれた土地です。大規模な陶磁器メーカーでは、大きな機械でムラなく轢いた原料を使っています。それでは土の持ち味が無くなってしまいます。伝統的な方法では、これを手で行い、粘土と水を混ぜていきます。そうすると残った不揃いな砂つぶが、完成品の表面に浮き出てきます。その結果、完璧にフラットではない粗い表面に仕上がります。それは私たち日本人が意図して作りたい不完全さなのです。」
加藤さんは完璧ではなかったから金賞をとったのか?それともその反対なのか?と私は考えました。結局のところ人間の人格でも同じように、少し欠点があることによって個性豊かなアートとなるのでしょう。どの業種でも自動化が進んだ時代の中では、個性がより必要になってくるのかもしれませんね。私は日ごとにこれを強く感じています。
加藤さんは完璧ではなかったから金賞をとったのか?それともその反対なのか?と私は考えました。結局のところ人間の人格でも同じように、少し欠点があることによって個性豊かなアートとなるのでしょう。どの業種でも自動化が進んだ時代の中では、個性がより必要になってくるのかもしれませんね。私は日ごとにこれを強く感じています。
国際陶磁器フェスティバルMINO’20
2020年9月18日~10月18日
コンペティショングランプリの賞金 500万円
「やきもののゆくえ」
既成の概念にとらわれず、自由な発想でやきものの未来を切り拓く作品を求めます
既成の概念にとらわれず、自由な発想でやきものの未来を切り拓く作品を求めます
来年の秋に多治見市で開催される大規模な陶磁器イベントについて、国際陶磁器フェスティバル事務局長の樋口正光氏にお話を伺いました。岐阜県現代陶芸美術館と展示スペースを併設するセラミック パークは、第12回国際陶磁器フェスティバル’20のメイン会場です。そこで開催される国際陶磁器コンペティションではグランプリの賞金500万円、エントリー締め切りは2020年1月10日です。個人でも企業などのグループでもエントリーできます。伝統的な陶芸作品はもちろんのこと、従来にも増した斬新な提案、そしてやきものの未来を切り拓く作品の応募を期待しているそうです。
近年、陶磁器の分野にも、新素材、新技術、領域のボーダーレス化などによる新たな発展が期待されており、従来にも増した斬新な提案、そしてやきものの未来を切り拓く作品の応募を期待いたします。エントリーはスタジオ分野とファクトリー分野があり、その2つのカテゴリーで競います。ファクトリー分野では工場や工房が産業陶磁器の新しい時代に出ていく機会となります。これは新しい技術と素材に基づいた作品を求められています。
以前のフェスティバルとの違いはどう言ったところでしょう?「今回のフェスティバルの目標は、地元の産業に注目を集めることです。これは陶磁器産業だけでなく、他の産業も含んでいます。私たちは、多治見、土岐、瑞浪、可児の4市の企業が世界と出会う機会を作りたいと考えています。こういった理由により、このフェスティバルは単なる陶芸の祭典ではなく、もっと幅広い意味を持って開催します。セラミック ・バレーというコンセプトに基づいた産業フェアの要素も含める予定です。」古くは美濃と呼ばたこの地域は、陶磁器生産のための優れた天然資源が眠る広大な山間にあります。
このフェスティバルは単なる陶芸の祭典ではなく、もっと幅広い意味を持って開催します。セラミック ・バレーというコンセプトに基づいた産業フェアの要素も含める予定です。
樋口氏はフェスティバルについてこう話します。「もちろん陶芸愛好家の方々にとっても、なかなか体験できない機会となるでしょう。例えば、ここ多治見市には美濃焼ミュージアムやモザイクタイルミュージアム、その他の陶磁器関連施設がたくさんありますが、フェスティバル期間中はこういった施設を回れるパスチケットを、リーズナブルな価格で販売します。もちろん多治見市だけでなく、土岐市、瑞浪市、可児市も含まれます。」
多治見市はインバウンド観光客向けに多治見で出来る体験をまとめたプロモーションビデオをリリースしました。
セラミック パークMINOは名古屋から電車で40分の多治見市にあります。
「今回の重要な目標は国際化と、外国人のための地域へのアクセスの向上です。この地域には陶器関連のイベントやお祭りがたくさんありますが、地域的な性質が高いのです。そういったものに対し、このフェスティバルではボーダーレスな交流を求めている全ての人たちに開かれていますよ。」
「セラミック ・バレーには、大きな生産能力と多方面にわたる産業やサービスがあります。そのため、私たちはフォーカスをどこに合わせていくのかが大きな問題となっています。この地域の『美濃焼』について、どれが一番誇れるものか尋ねてみると、『全部』という答えが返ってきます。しかし、『全部』というのは他の人に伝えるのが非常に難しいのです。また、陶磁器産業は先行きについて、大きな課題に直面している状態でもあります。ここでこの地の陶磁器産業の出発点に戻り、遠い昔の先人たちの姿勢に学ぶ必要があると思います。気持ちを新たに再出発しなくてはいけません。この国際陶磁器ファスティバルはその第一歩です。私たちはフェスティバルへの外国人誘致に力を入れており、海外からも多くの人たちがきてもらえる事を心から願っています。また、そういった人たちの一部がこの地に落ち着いて、新しくビジネスを始めてくれたら、喜ばしい事ですよね。」
私たちは応募作品に対し、アート的な価値も革新的な技術もどちらも注目し、バランスの取れたコンペティションの評価をすることが大事だと考えています。
「今回のコンペティションでは約70か国の方々からの応募予定があります。現在は約2500点のエントリーが届いていますよ。1回目の審査は4月に行われ、そこで選ばれた作品は2回目の審査のため、こちらに作品を送っていただきます。グランプリの賞金は500万円です。エントリーには2つのカテゴリーがありますが、カテゴリーに関係なく、賞を競うことになりますので、相撲取りとボクサーが同じ土俵に立つような感じになるかもしれませんね(笑)。」と樋口氏は冗談めかしながら、「陶芸に焦点を当てるだけでなく、芸術的価値または強力な革新のいずれかで勝つことができるバランスの取れた競争をすることが不可欠であると考えています。」と話してくれました。
訪れた人たちにはこのフェスティバルだけではなく、他の場所にも訪れる事を願ってます。岐阜県には多くの美しい観光地がありますので、この地の文化を楽しむ機会になると思いますよ。