多治見に訪れた人たち、そしてその後
外国人観光客が感じた多治見の魅力
ドイツ人自然薯起業家のニコライさん
このサイトDiscoverTajimi.comは開設してから6年経ち、ネット上で多治見に関する検索が多くたどり着く場所として成熟してきました。今でも何年も前に公開した記事を探し当て、たくさんの方がこのサイトに訪れてくれるので僕たちの励みになっています。今回はそんな記事にフォーカスしたいと思います。その記事は2018年にアップしたもので、この地域のお正月の習慣での自然薯の役割について書きました。
2022年11月23日、ドイツのニコライ・シュミットさんから多治見への訪問についてこんな問い合わせがありました。
私は28歳で長芋の研究をしています。長芋の栽培について勉強するため、今青森に来ています。特に無農薬・無化学肥料の有機栽培の農家を探しているのですが、その中で自然薯について知って、どうしても見てみたいと思っています。ハンス・カールソンさんの記事によると、多治見周辺の山に自生しているそうですね。私はドイツでは数少ない長芋の有機栽培農業家ですので、日本でできるだけ多くのことを学びたいと思っています。
イモは「芋」、ナガイは「長い」を意味し、ナガイモは特に長い種類のイモの名称となっています。自然薯は長芋と同じくヤマノイモ科の植物です。食物繊維やミネラル、抗酸化物質など多くの健康成分を含んでおり、まさにご馳走と呼ぶに相応しい食材です。地中深くに生息しているため、見つけるのも掘り出すのも一苦労なんです。
ニコライさんが地元の食材に興味を持ってくれていて、僕たちはとてもうれしく感じました。どうやら彼は芋オタクのようですね。知り合いにいろいろと話を聞いているうちに、地元のその分野の専門知識を持った「自然薯名人」とも呼ぶべき人を探し出すことができました。自然薯名人は、山に生える植物や木などを知り尽くしているそうですが、外国人を山に案内するのは初めてのことでした。彼は英語も分からずコミュニケーションが不安だということで、僕たちは2人の冒険を記録させてもらうのと引き換えに協力することを約束し、付いていくことになったのです。
ニコライさんは滞在している宿泊施設から自転車を借りて僕たちのところにやってくるということでしたが、土地勘がないので道に迷わないか僕たちはちょっと心配していました。その当日は朝早く、かなり冷え込んだ日でした。防寒着を着込んで家を出て約束の場所に行くと、背の高い細身の外国人が、いかにも「山歩き名人」という見かけの日本人と立ち話をしているのに気づきました。しかし事前情報では、その名人は英語ができないはずでは・・・。僕たちはかなり面食らいましたが、その二人はまさに僕たちと約束をした人たちであり、お互いに一言も理解できないのに、とても仲良くしていたのです!!話を聞くと名人は、多分この外国人だろうと思ってコンビニでコーヒーを買ってきて、楽しく一緒に飲んでいたということでした。
ニコライさんはとても感じのいい人で、イモに対してとても真摯に向き合っており、かなり詳しいことが分かりました。昔ドイツに自然薯に似たナガイモが持ち込まれ、ヨーロッパではまだ珍しいそうですが栽培できるようになったと話してくれました。そして今回、日本の自然薯をドイツで商業的に、しかもオーガニックで自然な方法で栽培できないかと考えたのだそうです。自然薯名人の話によると、日本では通常人工栽培では斜めに埋めたビニールパイプに自然薯を入れ、下に垂直に伸びないようにするのだそうです。自然薯は自然の本能として非常に深く成長するのですが、それができない場合より速く、より大きく成長するのだと話してくれました。しかしニコライさんは自然のままに成長させ、なおかつ商売になるよう効率的に作物を栽培するアイデアがあるようでした。
そうして僕たちは、貴重な自然薯を探すために山に入っていきました。そこは竹やぶが生い茂り、地面の草木に足を取られて転びそうになるような場所です。しか名人はスパイク付きのブーツをはいて驚くほど速く、迷うことなく素早く進んでいきます。僕は彼の健脚には全然かないませんでした。
やがて名人は何かを見つけたようで、必死に地面を掘り始め、どんどん深く掘り進んでいきました。彼は自然薯が育つ土がとても重要なのだと、掘りながら説明してくれました。赤くて鉄分を含んでいないといい芋の味は出ません。それに外の皮をきれいに剥いてしまってはいけないのです。「土の風味が少し残っていると、とてもいい味になるんだよ。」と彼は教えてくれました。よその地域の人にはそれがわからず、自然薯を丁寧に洗って皮を剥いてしまう人が多く、しばしば地元の人たちの笑い話になるなんてことも話しました。
名人は自然薯を長いまま折らないように掘りあげようとしましたが、残念ながら途中で折れてしまいました。それでは商品としては価値が下がるそうですが、個人で食べる分には問題ありません。どんどん山の中に進んで、ジャングルのように植物が生い茂って、通り抜けるのにナタが必要なさらに太い木立の奥に入っていきました。そのころにはニコライさんは立派な自然薯ハンターになっていました。自然薯のツルは高さ4メートルにもなるような木などに登っているのです。生い茂る草木の中を高速で移動するニコライさんの姿は、まさに本領発揮といった感じでした。
夜は自然薯料理で大満足の食事でした。なんと名人を紹介してくれた人の奥さんが、掘ってきた自然薯を快く料理してくれたのです。ニコライさんはとても嬉しそうでした。たった1日しか一緒にいませんでしたが、自然薯掘りや夜の宴会は鮮やかな記憶として僕の中に残っています。ニコライさんはドイツでこの植物を育てる計画があるそうですが、その後どうなったのだろうかと思いを馳せていました。そんな折、それに関するお知らせがヨーロッパから届きました。この記事の最後に付け足しておきましたよ。
Ho-Caの工房で陶芸を学ぶ学生たち
2023年2月18日、僕は多治見の中でも特に好きな場所であるHo-Caの陶芸工房を再び訪れました。少し雑然としていますが、それがさらに人間味を醸し出したとても温かく居心地のいい工房で、陶芸家の柴田節郎さんが弟子たちを指導しています。僕は彼のことを日ごろから粘土の魔法を操る日本のガンダルフのような方だと思っているのですよ。この日は、アメリカのペンシルベニア州から来たマーサさんが工房にやってきました。彼女は多治見市の近隣の瑞浪市に数日滞在し、ボランティアでブドウ畑や純米酒畑で農作業をしてきたそうです。コンピューターサイエンスが彼女の専門ですが、アートにも強い関心を持っているようです。今彼女はリラックスした環境の中で、自分のもう一つの側面を探求する時間を持ちたいと話してくれました。ここはそんな彼女にぴったりの場所だと思いました。
僕が工房を訪れた時にはマーサさんの他にフランス出身でスイスを拠点に家具やインテリアのデザインをしているジュリアンさんに、新潟出身で東京の美術大学に通っているキョウコさんもいました。シンガポールから来たリンダさんは、Ho-caでの長期作陶コースを終えたばかりでしたが、11月にまた来る予定だということです。工房は今とても忙しく、メールボックスには問い合わせが続々と届いています。そんな様子から僕はコロナパンデミック後の観光規制が解除されたことを強く実感しています。
生徒たちに感想を聞いてみました。マーサさんは、これまでHo-Caで出会った生徒と同様、とても熱心な生徒のようです。印象的だったのは、彼女がすでに日本語を少し勉強していたことです。もし読者の皆さんもこの国を旅行する予定があるなら、ぜひ勉強しておくことをお勧めします。日本人はほとんどモノリンガル(日本語だけ)なので、あなたが日本語の単語をたった数個知っているだけでも、あなたの経験をより豊かなものにする助けになるでしょう。幸いなことに柴田先生はコミュニケーション能力に長けていて、黒板には教えるのに役立つ単語が書き込まれています。ここには言葉の壁で行き詰まる人はいないようですね。
前から滞在中のジュリアンさんは「ここでの勉強にとても満足しています!学んだことを活かして、本業のデザイナーの仕事に取り入れたいんです。」と話してくれました。確かに彼の作る家具やインテリアのモダンでシャープな印象と、日本的な陶器のオーガニックな感覚とのバランスは、とても魅力的なアイデアだと思います。そして「言葉や文化が障壁になることもありますが、とにかくその中に飛び込んで集中することが大事ですよね。それからこの場所の本物らしさが好きです。リアルさを感じるのです。ここにはいろいろなものがあり、ふとすると散らかっているようにも見えますが、歩き回ってあらゆるものを勉強し学ぶことができます。もっと時間があればいいのに!」とたくさん語ってくれました。ジュリアンさんはすでに2週間滞在を延長しているにもかかわらず、まだ時間が足りないと感じているようです。
キョウコさんにも聞いてみたらとても満足そうに話してくれました。「私の大学のスタディーサークルでは、このような指導を受ける機会はないんです。それにガス窯はなく、電気窯だけしかないんです。滞在中は朝6時に起きて、1時間かけて町の中を散歩しています。先週末は市の中心部のオリベストリートに行って、素敵な陶器を見て、道具を買って、おいしいものをたくさん食べました。とても楽しかったです。ここでは陶芸だけでなく、英語もたくさん学べますしね。」
このように長い時間、一つのことに集中できる環境は、慌ただしい現代社会ではなかなかありません。私はマーサさんに「無」という言葉を教えてあげました。「無」とは、精神的に空っぽの状態になることで、周囲の雑念から完全に切り離されることです。「無」は、禅の思想における重要な用語です。この言葉は日常的な日本語でも使われ、「何もない世界に漂う」というような意味を持ちます。例えばろくろの上の粘土に集中していると、このようなことが起こります。
それを聞いてマーサさんはこう言いました。「粘土に支配されたり、思い通りの形にされたりするのではなく、自分の頭の中で想像したとおりの形にしたいんです。」それを聞いて僕は、はおそらく粘土と戦うのではなく、無の世界で粘土と一体になることが、それを達成する一つの方法なのではないかなと感じました。
粘土をこねているキョウコさん。粘土を十分に湿らせていないため、うまくいかないのだそうです。
帰国後・・・
熱心な訪問者たちは帰国してそこで感じたことを消化し、今後の仕事や趣味に活かしているようです。先出の山芋起業家のニコライさんからはドイツに帰国した後の様子をメールで伝えてくれました。
私は今、バーゼル大学でゲーテアヌム(https://goetheanum.ch/en/)と共同で、長芋の研究プロジェクトを続けています。これは1850年代の晩枯病(1)によるジャガイモの不作時に、ドイツでナガイモを栽培しようという話が持ち上がったのが最初です。その時は何度か試験栽培が行われたが、収穫に手間がかかるためか継続されませんでした。
私はドイツの有機栽培農場でナガイモの栽培を行い、伝統的にジャガイモを食べるドイツ人の皆さんに、私が考案した基本レシピで料理したナガイモを紹介しました。みんな本当に喜んで食べてくれました。多治見で教えてもらったヌルヌルした生の食べ方は万人に好まれるものではありませんが、中にはとても喜んでくれる人もいます。ドイツではナガイモはとても高価です(1キロあたり約25〜40ユーロ)。それは収穫するのに非常に多くの手作業が必要だからです。
さらにほとんどの土壌が自然薯に適していないため、溝を作る必要があるのです。栽培を楽にするために、私はドイツの土壌の異なる場所で試験栽培を行っています。適切な自然の土壌を見つけたいのです。そして日本ではナガイモの収穫機を知ることができました。ドイツでこの機械を導入することは大きなステップになると思いますが、まずはこの植物が食用として普及し、土壌のよい農家で栽培したいという人が増えることが必要ですね。
そこで私はプロジェクトの第一弾として、さまざまな植物の形を比較研究することで、植物を理解しようと試みています。そのプロジェクトで、バーゼル大学(スイス)に来ることになり、同じバーゼル近郊のゲーテアヌムと共同研究をしているのです。
本物の日本を体験する
多治見に来た方々は、皆、日本の別の側面を体験することができたようです。それをジュリアンさんは「本物」と表現しました。道を外れたところにこそ本物の人々がいるのです。本物の人々は、あなたが自分らしく過ごせる時間を提供してくれます。この記事が多治見の人々、場所、文化をより多くの人に知ってもらうきっかけになることを願っています。ご興味がある方はぜひ私たちにご連絡くださいね。
Notes
1) 晩枯病は、トマトやジャガイモの葉、茎、トマトの果実、ジャガイモの塊茎に感染し、致命的な被害をもたらす可能性のある病気です。