モザイクタイルプリンセス
日本を訪れる外国人観光客たちは町のキレイさについてよくコメントを残しています。この記事では、ゴミ収集場所をアートとして表現し、地元産業の復活に貢献する新しい方法を見つけた多治見市の女性グループについてご紹介します。
海外の評判では、日本人は綺麗好きで、自分のその周りを常に清潔に保つ努力を怠らないと言われています。日本ではお風呂に入らずに寝ることはありません。そして日本の学校では、教室やトイレの掃除も教育システムの一部となっています。またブラジルやロシアで開催されたサッカーのワールドカップでは、日本代表チームのファンたちが自発的にスタジアムでゴミ拾いをし、世界を驚かせました。
日本全国全ての町では、定期的な町の清掃が計画されています。(もちろん筆者の住む小名田でもありますよ!)朝早くから歩道のゴミ拾いや草刈りをします。また、小名田町では丘を登ったところにある小さな神社の階段や境内を掃除する日もあります。これは神聖な場所を綺麗に保つだけでなく、地域の人々の交流の場としても機能しています。
地域の清掃は昔からの習慣となっています。多治見市のある町ではコミュニティを綺麗にするユニークな方法を考えました。それはタイル産業で有名な笠原町で行われている取り組みですが、年にゴミ収集所を2箇所づつ、美しい柄のモザイクタイルで飾っていくそうです。そして、この取り組みを主導する女性グループは自分たちを「モザイクタイルプリンセス」と名付けました。
芸術作品になったゴミステーション
ゴミステーション(この地域ではゴミ収集所のことをゴミステーションと言います。)はコンクリートの3面の壁でできています。ここにはゴミ収集日の朝に地域の人々がゴミを出す場所になっています。日本のタイル製造でも実質的に中心となる笠原町に本拠地を置くモザイクタイルプリンセスは、ゴミステーションをモザイクタイルで装飾することで、殺風景なコンクリートの建造物を美しく蘇らせました。まだ夏の暑さが残る10月のある日、私たちは倉庫の長いテーブルの周りで作業する彼女たちを訪ねました。テーブルの上には絵が描かれた大きな紙を広げ、小さなモザイクタイルをその絵に合わせて載せていっている最中でした。グループのリーダーの武藤瞳さんは踏み台に登って少し上からうまく行っているか何度もチェックしていました。彼女たちは紙に描かれたアウトラインに拘らず、休む間も無くその場でピースを組み合わせているようでした。
武藤さんに尋ねてみると「デザイン画に沿って、感覚でタイルを置いていってるんですよ。」と答えてくれました。これはもちろん商売でやっていることではありません。このグループのメンバーは全員ボランティアです。彼女たちはタイルの魅力の再発見のための活動をしているのです。
武藤さんはこう話してくれました。「工場で作られたタイルが飛ぶように売れていた時代のことをよく覚えていますよ。しかし『ユニット・バス』のような新しい商品が開発され、モザイクタイル の需要が減りました。それでもこの街には千年も前からの歴史の伝統があり、タイルはその歴史の一部でもあります。タイルの市場がだんだんと衰退していくのを目の当たりにし、タイルの持つ美しさを再認識させたいと思ったのです。近頃20代や30代の若い女性の間でタイルの人気がまた高まってきて、そういった状況に勇気づけられました。笠原町にモザイクタイルミュージアムがオープンしたこともタイルが再注目されるきっかけになったのかもしれませんが、それより前から静かな人気が沸き起こってきていたと思います。」
「新しくモザイクタイルミュージアムを作るという計画は、タイル産業の復活についてみんなが考え始めるきっかけになったと思います。私たちが関わるタイル業界の低迷の中、世界に発信する新しい方法を考えるべきだという声は、少しずつですが増えてきています。私たちのグループが行っている活動はそういったところから発生したんですよ。私たちの中心となる考えは、ゴミステーションのような汚くなってしまいがちな場所を綺麗にすることで、タイルの美しさを強調したいということです。」
過ぎ去りし日の鮮やかな思い出
倉庫の様子が360°画像で見られます。 クリック、ドラッグして全体を見ることができます。
「このグループはスタートしてから5年経ちます。『モザイクタイルプリンセス』というグループ名から分かるようにメンバーは全て女性で、30代〜70代の方がいます。主婦に司書や地元のタイル製造業者、タイル商社、タイル加工屋などに関わる方などメンバーの職業は様々ですね。」
「私たちの目標はゴミステーションのモザイクタイル装飾を年に2箇所ずつ増やしていくことです。笠原町には129箇所のゴミステーションがありますので、全て出来るにはまだまだ長い道のりになります。この活動を始めた時、モザイクタイル装飾の計画、設計、施工についてのスキルが無かったので、色々と試行錯誤しましたよ。幸いなことに、タイル業界のベテランさんたちが親切にアドバイスをして数年間助けてくれました。今、彼は歳をとってもう出来ないかもしれないということで、私たちは自分たちの力で作り上げています。」
「この活動以外にも地元からの要請を受けて、公園のベンチのタイル装飾もしましたよ。やっぱり笠原町はタイルの町なので、公共スペースをタイルで美しくするのは町にとっていい方法だと思います。かつてタイルが飛ぶように売れていたいい時代のことをよく覚えているんですよ。その頃は、タイルの貼り場があちこちにあったので、タイルを貼るガチャガチャという音がそこら中から聞こえていましたね。」
彼女のお話で以前取材したタイル工場(貼り場)のことを思い出しました。そこに横並びで作業している女性職人たちは、昔ながらのやり方で、枠に小さなタイルを物凄いスピードで嵌め込んでいました。彼女たちの手は忙しく動き、枠にタイルをたくさん入れてそれを振り、タイルのパターンを完成させていきます。その枠を振る時の音がガチャガチャと聞こえていたのが印象的だったのです・・・。
「その音のことです!」と言って武藤さんは懐かしい話をしてくれました。「当時、貼り場では主婦たちが一日中タイル貼りをして、一生懸命働いていました。タイルを枠にはめる時にパチパチと音が出るんです。こういう女性たちのせっせと働く光景と音は、今でも和たちの記憶の中に鮮やかに刻まれています。」
「モザイクタイルの美しさは全体像を現した時です!」
ゴミステーションの側面にも美しいモザイクタイルアートが施してあります。
武藤さんは熱のこもった声で、メンバーのみなさんとモザイクタイル の配置について話し合っています。「モザイクタイル の一つ一つは小さいのですが、大きな絵に組み合わせた時に初めてタイルの持つ本当の魅力が分かるのです。」と武藤さんは教えてくれました。
「この活動をやろうとした時、タイル施工に適した物はなんだろうと考えていました。そうしたら、ゴミステーションに施工したらどうかという意見が出ました。なるほど、ゴミステーションはコンクリートで作ってあるだけで、町にはたくさんあります。ここ笠原町だけでも129箇所ありますからね。今までに施工したのは20箇所ちょっとですね。みんな初心者でしたから、新しい挑戦の連続でしたが、コストとしてはそんなにかかっていません。メンバーはボランティアですし、タイルは地元のメーカーから無料で提供されていますから。」
「この活動をやろうとした時、タイル施工に適した物はなんだろうと考えていました。そうしたら、ゴミステーションに施工したらどうかという意見が出ました。なるほど、ゴミステーションはコンクリートで作ってあるだけで、町にはたくさんあります。ここ笠原町だけでも129箇所ありますからね。今までに施工したのは20箇所ちょっとですね。みんな初心者でしたから、新しい挑戦の連続でしたが、コストとしてはそんなにかかっていません。メンバーはボランティアですし、タイルは地元のメーカーから無料で提供されていますから。」
「作業は毎月どこかの週末の2日間、今日みたいに5〜6人集まって工場でタイル設置の準備をします。実際にゴミステーションに施工するときはもっとたくさんのメンバーが集まってみんなで行います。絶対参加とか厳しいルールは作らないようにしています。そうしてしまうとみんなそれぞれ事情もありますから、メンバーをやめてしまうでしょう!?メンバーの多くはタイル業界での仕事経験がありますが、デザインから施工まで全ての工程が分かる人はいませんでした。例えば、タイルの製造方法やデザイン作成は知っていても、そのさきの方法は誰も知らなかったんですよ。なので、1年目は色々と試行錯誤しました。タイルを柄に合わせて置いてみたところに粘着紙を貼りますが、それも苦労しましたし、施工にも苦労しましたよ。」
町を美しくする活動で得られるもの
「この活動で良かったことは、実際にタイルの美しさに対する認識が高まってきたことです。また、工場での作業のように一つの部分だけでなく、作業の全ての流れがわかったことも良かったですね。」
最初の取材時に工場で作業していたモザイクタイルを後日施工している様子
「これからは若い女性たちにもっと参加していただきたいと思っているんですよ。色々と呼びかけもしたいとは思っていますが、若い人は自分の人生を楽しむのに忙しいかもしれませんね。とにかく、グループに若い人たちが増えて欲しいですよね。」
「これからは若い女性たちにもっと参加していただきたいと思っているんですよ。色々と呼びかけもしたいとは思っていますが、若い人は自分の人生を楽しむのに忙しいかもしれませんね。とにかく、グループに若い人たちが増えて欲しいですよね。」
何回も雨で施工予定が中止になりましたが、晴の日がやってきてようやく完成できました。
「私たちはこの活動の成果にとても満足しているんですよ。町中のゴミステーションを見て回る人もかなりいるみたいですし。早く目標を達成するために、私たちのようなグループが増えるといいですよね。いつか町の全部のステーションが綺麗なタイルで飾られるのを見たいですね。暑い夏の日や冬の寒い日のタイル施工は本当に大変な時もあります。でも、今日のように工場でのタイルレイアウトはとってもワクワクしますよ!私たちの活動によって町が綺麗になり、笠原のタイルが再評価されることになるなら、この活動も無駄ではないかもしれませんね。」
笠原町のモザイクタイルアートを施したゴミステーションマップ
マップのダウンロードはこちらから