フィンランド現代陶芸展とマリメッコ展が多治見に
By Hans Karlsson
2つの展覧会「陶器のパワー:フィンランドのモダニズムがアートに影響を与えたもの」「マリメッコ・スピリット:フィンランド展」
展覧会の詳しい情報とスケジュールはこのサイトのニュースページをご覧ください。
来年2019年はフィンランドと日本の外交関係樹立100周年を迎えます。この北欧の国は今やアートやデザインの世界で日本人からとても人気があります。今回多治見市にある岐阜県現代陶芸美術館でフィンランド陶芸とテキスタイルの展覧会が開かれます。
これは1950、60年代の作品から現代までフィンランドの素晴らしい陶器作品を一挙に展示する史上初の展覧会となります。 マリメッコはフィンランドで1951年に設立されたテキスタイルの会社です。この会社の精神は常に自由なクリエーションを目指しています。そのデザインは斬新な色使いで、北欧の自然からたくさんのインスピレーションを受けています。それは不思議と日本のデザインにも多く通じるものがあります。
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陶器のパワー
今回の展示のハイライトともなるビルガー・カイピアネンはフィンランド陶芸の巨匠で、陶器製のビーズで作られた鳥は彼の作品の中でも特に有名です。著名な作家によるこれらおよび他の作品は、粘土以外の様々な材料も取り入れられ、多くの日本人が陶芸として考えるものを超えています。この鳥の作品以外ではカイピアネンは、美しい絵をのせたテーブルウェアのデザイナーとして、日本ではその名前を知られています。
カイピアネンは確かにフィンランド陶芸において最も名前が知られている一人ですが、この展覧会で取り上げている作品の多くは、女性が手がけていることにも触れておかなくてはいけません。このサイトでは著作権の問題でこれらの他の作品の写真を載せることは出来ませんが、この美術館に足を運んで、そういった作品を皆さんにぜひ見ていただきたいと思っています。どの陶芸作品も素晴らしく、また、隣にはマリメッコ展も開催されており、どちらも興味深い展示となっています。
展示されている陶器
マリメッコ・スピリット
この展覧会では「日本」をテーマにマリメッコの人気デザイナーたちが新しいデザインを作りました。また現代のフィンランドデザインと日本を融合させ、マリメッコでデコレーションした茶室の展示もあります。
アンナ=マリア・ウィルヤネン氏へのインタビュー
アンナ・マリア・ウィルヤネン氏は日本にあるフィンランドセンターの所長です。彼女は2015年に、博士論文では19世紀の北欧、ヨーロッパの絵画、とりわけ女性画家の視点に焦点を当て、彼女たちの社会への影響力などをテーマに執筆し、美術博士号を取得しました。また政治経済学修士号も持ち、7ヶ国語に堪能で、現在自身では8ヶ国語目となる日本語を学習中です。この展覧会のオープニングセレモニーの終了後、彼女に少し時間を取ってもらい、インタビューすることにしました。私はアートの世界では、フィンランドの作品がどのように日本とつながりがあるのかということにとても興味がありました。スウェーデン人である私は、バルト海を渡った私たちの同胞たちは日本との関係と築き、学んできたことがたくさんあることを知っています。長い時間をかけたマーケティングによって、多くの日本人たちはサンタクロースがフィンランドのものであると認識しています。そして、ムーミンは日本で爆発的な人気があります。またフィンランド人は日本からの飛行機の直行便があることを誇らしく思っており、スウェーデンへ行くのにはヘルシンキかコペンハーゲンで乗り換えをしなくてはいけません。これらのビジネスに関した成果を通して、私はアート界でもフィンランドは同じような成果があるだろうと感じていました。
「フィンランドセンターは科学、文化とハイレベルな教育の3つの分野で活動しています。今年は日本のフィンランドセンター設立20周年記念です。また、来年は日本とフィンランドの外交樹立100周年を迎えます。その次は2020年に東京オリンピックがあり、現在こういった記念事業に忙しく動いているんですよ。」とウィルヤネン氏は説明してくれました。
日本とフィンランドの間には、特に陶器を中心としたアート・デザイン界において、エキサイティングな相乗効果があると思いますか?
「もちろんです!日本とフィンランドは全く違う文化を持っていますが、その中でもたくさんの類似点もあります。その中でも興味深い類似点は日本人もフィンランド人も無駄話を好まないという部分です。例えばこの2つの文化では、会議などで長い沈黙があったりしますが、それが重く苦痛に感じられることはありません。アートと陶芸に関して言えば、ミニマリズムは日本とフィンランドの芸術的表現の非常に重要な一面でもあります。」
「フィンランド人と日本人は『過ぎたるは及ばざるが如し』という感覚を好みます。
私たちは華美なデザインよりも、このことわざの真の意味を理解し、そういった感覚は好きなのです。この展覧会では、フィンランドの陶芸やマリメッコのテキスタイルにそういう感覚を感じてもらえると思います。もう一つの重要な類似点は日本もフィンランドも自然からインスピレーションを受けている部分です。これもこの展覧会の中で十分に感じてもらえることでしょう。また今日のオープニングスピーチでもお話ししたことですが、フィンランドデザインの重要色である青は、数え切れないほどの湖がある国として知られるフィンランドの自然と密接に関係しています。」
日本人来館者はこういった類似性を積極的に反応していると気付きましたか?
日本人来館者はこういった類似性を積極的に反応していると気付きましたか?
「そうですね、私はこの部分をもっと反応してもらえるように尽力しています。例えば、葉山で「もう一つの自然」と題したアルヴァ・アアルトの展覧会を開催しましたが、その後東京の新宿で日本人の教授による講座が開かれました。彼はアアルトの窓についてなんと2時間も話したんですよ!このやり取りと熱意は私にとってとても心に残るものでした。外から見た人は、私たちは普段当たり前だと思っていて、なかなか気づくことができないような様々な視点を見つけられるのです。これは新しいひらめきに出会う素晴らしいチャンスです!こういったことはフィンランドと日本のアーティストたちの交流の一つの方法です。アーティストたちは違う国に滞在し、現代アートの国境を超え、こんな感じに交流できると良いいですね。
「私の夢は比較美術史をテーマにしたカンファレンスを開くことです。そこでは日本とヨーロッパを比較した1900年代について議論します。例えば私たちがヘルシンキで開いた広重と北斎の展覧会は大成功を収めましたが、そこからはもっと学ぶべきことがあったことに気がつきました。1900年代の北斎の版画とフィンランドの風景画には類似点があったのです。こういった比較研究は現代美術と美術史研究家の両方の観点において、本当にやりがいがあります。」
この2つの国の間で興味深く影響しあった例は他にもありますか?
「もちろん、もっとありますよ。アルベルト・エデルフェルトやヘレン・シャルフベックは特に日本からの影響を受けています。」
「他にも風景画でそういった影響をたくさん見られます。アルヴァ・アアルトについて言えば、彼は日本に来たことはありませんが、はっきりと日本の影響を受けています。フィンランドから日本芸術への影響についてはここまではっきりと出てはいませんが、私はこのテーマについてもっと掘り下げて行きたいと思っています。」
彼女のオープニングスピーチではフィンランド陶芸のアート界への貢献だけではなく、フィンランド人であるという感覚からどのように発展したかを強調しました。フィンランドは国としては若く、13世紀から1809年までスウェーデンの一部で、1917年にロシア革命が起こり、やっと独立を宣言できたのです。おそらくこの新たな自由の獲得は、この後現在まで続くフィンランド芸術の創造性を、大きく後押ししたことでしょう。
「フィンランドの陶芸家たちは彼ら自身のスタイルを作り上げました。彼らは美のパワーを強く信じ、アートを通して世界を良くしたいという気持ちを持っていました。彼らの陶芸は、例えばフィンランドに数え切れないほどある湖の昔から変わらない深い青を表現したように、その鮮烈な色使いからフィンランド人であるというエッセンスがそこここに散りばめられています。」
また彼女は、ビルガー・カイピアネンの陶製ビーズでできた鳥や、エルザ・エレニウスのクラシカルな純粋さがあり素晴らしく艶を放っている陶器を例にあげました。エルザ・エレニウスの自分らしい作品の創作は、彼女が心酔していたオリエンタル陶器がその出発点になりました。
フィンランド人はデザイン分野からアート分野において、そのブランドイメージの日本での浸透に力を入れています。この陶器の展覧会でアートは大きなテーマです。そして日本でこのようなフィンランド陶芸を大きく取り上げることは初めての試みだとウィルヤネン氏は話します。
「これまで日本でのフィンランド展はプロダクトデザインにスポットを当ててきましたが、この展覧会は違う視点から取り上げています。この展覧会はフィンランドデザインの黄金期と呼ばれる1950年代から1960年代の陶器をクローズアップした最高の機会になります。ここではまた100点を超えるファインアートや工芸品を展示し、そのの視点を反映した視点の角度から取り上げることに挑戦しました。ここで取り上げた作品の多くは女性作家たちで、これもこの展覧会の注目すべき点でもあります。」
特に陶芸ではフィンランド芸術とデザインにどんな将来を見ていますか?
「私はこれについてとても輝かしい未来があると思っています。今回の多治見で展示した作品の多くはカッコネン氏(フィンランド人の裕福な実業家でアートコレクター、TokmanniグループのCEO)の素晴らしいコレクションからお借りしました。彼はハリー・カルハ博士(ヘルシンキ女子大学美術史講師)とチームを組んでいます。この展覧会と展覧会図録は陶器の持つ魅力に再発見になると考えています。今回フィンランドの陶芸、色彩や素晴らしいアーティストたちが違う視点からスポットを当てられ、それは若い世代の人たちをも魅了することでしょう!また、Vaja Finlandのような新しい陶磁器デザイン会社も取り上げました。この新しい会社のデザインにはフィンランド陶芸の素晴らしい伝統のエッセンスがあります。」
ウィルヤネン氏と永保寺の出会い
このビデオはスウェーデン語、日本語、英語の字幕スーパーがついています。パソコン画面では右下のccボタン、モバイル画面では右下の3つボタンで切り替えてください。
多治見でのフィンランド展で、日本人の皆さんは北欧の国々の美しい芸術表現に目を見張ることでしょう。またこのオープニングセレモニーの後、ウィルヤネン氏に多治見を代表する永保寺を案内することができました。彼女は京都の有名な寺院と比べても謙遜のないこの美しい寺院に「心を揺さぶられるほど美しい!!」と感嘆の声を漏らしていました。
静寂の漂う夕方の禅寺の訪れるのは本当に不思議な体験となりました。私たちがそこを去ろうとした時、お寺の鐘が鳴り始め、夕暮れの静けさの中に何度も鳴り響いていました。おそらくそれは驚嘆と畏敬の念が国境を越えられた芸術的出来事でした。言葉ではなく、心を揺さぶられるような・・・。