陶芸家の視点から
By Hans Karlsson
パート1はこちらから
前回のパート1では、日本の伝統的な文化である茶道についてお話しました。そこでは愛する多治見市を訪れ、茶道を個々に体験する方法について紹介しました。今回は、2人の素晴らしい陶芸家の目を通して、茶道の本質を探っていきます。今回は物語にフォーカスし、茶道の中心である茶碗に隠された最もらしい物語に迫っていきます。それはこの儀式の核心を突き、その形の中には、ベールをはがされるのを待っているかのような物語があるのです。
今回の記事にはVR用コンテンツもあります
柴田育彦氏:茶道といえば、「毒 」という言葉が頭に浮かびます。
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この映像は3Dでご覧いただけます。そのためにはMeta Quest 3などのVRヘッドセットを装着し、YouTube VRアプリケーションで「Ikuhiko Shibata」と検索して180 VRタグを選択し、動画にアクセスしてください。
柴田氏はこの動画の中で、この素晴らしい形を作り出すために、どのようにろくろを「もう1回転」させたかを説明しています。
陶芸家の柴田育彦氏のアトリエの片隅にひっそりと佇む茶室で、そのひとときをご一緒させていただく機会に恵まれました。 そこには、柴田氏の職人技とこだわりが詰まった茶器がずらりと並んでいます。
「私はまだ茶道の初心者ですが茶道について言えば、内戦に明け暮れていた戦国時代の武士たちに、お茶は会話の場を提供していたと思います。 狭い茶室で敵味方の区別なく会って交渉したのでしょうね。 気まずいような微妙な状況だから、お茶会のさまざまな道具が役に立ったのではと想像します。」
「『この茶碗、誠に立派でしょう!これは素晴らしい陶芸家が作ったものでして、ちょっとご紹介しましょう。』と、主人がその茶碗の話なんかを始めたり・・・」と柴田氏は続けます。「主人は、『有名な職人が手掛けたこの茶杓を手に取ってご覧ください。素晴らしい才能でしょう!それから水差しはいかがでしょう。そうそう高名な僧侶が書いた書の掛軸も素晴らしいですよ。」茶室ではこんな感じに話していたのでしょうね。これは、危険な時代に親しみやすい雰囲気を作り出す方法だったと思います。 茶室は平和な場所です。部屋の入り口(躙り口)は小さいので、剣を抜いて駆け入ることはできません。 戦いに必要な武器は外に置いて入るようになっていました。」と柴田氏は茶道について話し始めました。
「もう一つは茶道のそのものの形ですよね。ご存じのようにゲストは抹茶茶碗を受け取ると、飲む前に茶碗を回しますよね。例えば、戦国時代でホスト(亭主)はゲストに毒を盛るつもりだとしましょう。秘密裏に椀の縁のゲストに向いた部分に毒を塗って、ぐいっと飲むように勧めるでしょう。 椀を回すという作法は、そんな場合も考えてゲストにどこから飲むかを選ばせるためにできたかもしれません。」
「同じ意味合いじゃないかなと思うんですが、ホスト(亭主)は釜(鉄瓶)から柄杓(竹の柄杓)ですくった水の半分を抹茶碗に注ぎ、柄杓に残った半分は釜に返します。 釜に返すということはホストも同じ水を飲むということで、これは客に毒を盛ってないというもうひとつの保証を見せるためだと思っています。」
“Well, these are all my theories, but as I study Sado (the tea ceremony)—the word poison keeps popping up in my mind. It makes me think of many things about how the ceremony was performed in the troubling days of the long civil war in Japan.”
“Well, these are all my theories, but as I study Sado (the tea ceremony)—the word poison keeps popping up in my mind. It makes me think of many things about how the ceremony was performed in the troubling days of the long civil war in Japan.”
By Chris Spackman - the en:pictures section of OpenHistory http://www.openhistory.org/pics/castle_and_kenrokuen/html/2002-04-03_07-31-19.html, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=54693
茶道具にふさわしく歪みのあるけれど手に馴染む茶碗を考えて作っているのかと柴田氏に尋ねてみました。 「いや、考えてやってるわけではないんだけど、だいたい茶道に合うような形になるんです。 ちょうどよく、ゆがんだ形になります。 考えてみれば、人間の手は曲がったものを作る方がうまくいくと思います。 手は色んなものにフィットし、ちょうど手に納まる部分を見つけることができるんだと思います。」
柴田氏は偶然出会った人からいただいたという贈り物を取り出しました。 その人はガンで亡くなったそうですが、茶杓作りを趣味としていました。彼は細長く美しい茶杓を箱から出して見せてくれました。 その箱には「心如水(心は水の如し)」と書かれています。 そしてこんな物語を話してくれました。「これは竹で作られているんですよ。この形の茶杓を作るには、いい具合に曲がる竹が必要なんです。その人が亡くなる直前にプレゼントしてくれたこの茶杓は 私にとってとても大切なものとなりました。 茶室にあるものすべてに物語があり、茶室はそういった物語を語るための空間なのです。この茶杓の持つストーリーはそれを示す良い例ですよね。」
柴田氏はその美しく華奢な茶杓を箱にしまいながらこう締めくくりました。 「茶道の本質は物語だと思います。このような物語に満ちた部屋を作ることが、茶道の心であると私は考えています。」
青山双溪氏:白天目の物語
多治見は人口10万人程度の日本の地方都市です。ここにはその壮大さと美しさで知られる永保寺が建立されています。 このお寺は一説には、以前の記事で紹介した白天目茶碗の物語と関係があるという話があります。 陶芸家であり、実験考古学研究者でもある青山双溪氏は、この貴重な茶碗の製造方法の解明と再現に長年力を注いできました。
「日本の仏教寺院は、茶道と禅の結びつきがあったため、昔から多くの茶道具を持っていました。 永保寺は京都の臨川寺と関係がありますから、京都の僧侶たちが永保寺に茶道や洗練された茶道具を持ち込んだのかもしれませんね。中国の天目の写しを作る過程のどこかで、日本固有の形が生まれたのでしょう。 白天目もきっと同じように出来たのだと思います。現在大名物と言われる白天目はここ小名田で作られたのです。」
白天目と同じ焼物と思われる破片が発見された小名田の古窯で、日本の陶芸史におけるエキサイティングな伝統の痕跡が発掘されたそうです。その歴史は何世紀にも遡ることになります。
この天目碗について書いた以前の記事を引用してみましょう:
その白い茶碗は、近代日本の陶磁器に関する研究テーマの中で、議論と魅惑の対象となってきました。その茶碗は3点あり、かつては偉大な茶人、武野紹鴎(1502-1555)によって所有されていました。紹鴎は16世紀の戦国時代に生きた人物です。 (白天目
500年ぶりの再現 PART1)
紹鷗が所有していた茶碗のうち2点は、日本の文化史と政治史における偉人たちの手に渡っていきました。その中には、茶人の中の茶人である千利休もいました。その茶碗たちは、日本有数の武家で代々受け継がれていきます。そしてその中の一つは、青山氏の手仕事と、長い間忘れられていたこの美しい椀を作る技術を復活させようとする努力によって、現代に新たな命を吹き込まれた物語となりました。何年も試行錯誤を繰り返した末、青山氏は白天目が作られた時代の窯を再現する必要があることに気が付くのです。
澄心窯
「私はここ多治見の虎渓山の山の中に、古い時代の薪窯を再現し始めました。丘の斜面に長さ7.5メートル、高さ1メートルほどのトンネル状の大窯を作りたかったのです。灰釉を使っていた1500年頃の窯をイメージして設計しました。私の目標は、現存している大名物の白天目と同じものを焼くことでした。しかし1回目の焼成では、違う色に焼き上がり、思うような焼成結果にはなりませんでした。」
このビデオでは、焼成準備中の澄心窯が見られます。動画が合同会社Mimirによってドローンを使って撮影し、澄心窯の3Dモデルも作成しました。
The model has graciously been provided by Mimir LLC.
青山氏は数十年かけ、500年もの間忘れ去られていた貴重な天目碗の製法を再現しようと努めてきました。その努力は多治見市や名古屋の徳川美術館にも認められましたが、青山氏はまだその成果に満足していません。現在徳川美術館には、彼が制作した白天目の写しのひとつが保管されており、また同美術館には現存する3点のうちの一つで、徳川家に伝来されてきたオリジナルの白天目も保管されています。これは武野紹鴎が最初に所有したものです。
「なぜここで白天目が作られたのか、どのような土が使われているのかを解明することに人生を費やしてきました。」と青山氏は詳細について話し始めました。
「還元(焼成)と酸化(焼成)の効果を考えながら、窯の中の炎やガスの通り方を変えるために窯を直すことにしました。 3回目の窯焚きで、かなり良い還元焼成ができるようになり、自分のイメージに近づいたのですが、現存する長年使われた500年前のオリジナルとは見た目はまったく違っていました。」
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この映像は3Dでご覧いただけます。そのためにはMeta Quest 3などのVRヘッドセットを装着し、YouTube VRアプリケーションで「Sokei Aoyama」と検索して180 VRタグを選択し、動画にアクセスしてください。
茶を点てて長年使用した白天目と、未使用の白天目の違いを見せる青山氏。
「元来の製法に忠実であったのに、何が問題だったのかと思うでしょう。答えは長い間使い込まないと、本来の白天目のようにならないんですよ。」抹茶碗として使うことで、釉薬の細かいヒビ(貫入)に茶渋が入り込み、美しい模様に変化する、 また釉薬がかかっていない器の底の部分は、土の素材にお茶が染み込んで茶色く変色します。
「白天目はここで焼かれたに違いないのです!なぜなら、白天目を作るのに適した材料を含む土は、ここでしか手に入らないからです。釉薬の部分は 還元焼成だと青みがかった色になり、酸化焼成だと黄色がかった色になります。粘土もその釉薬の色に影響します。粘土に含まれる鉄分が少なければ少ないほど、仕上がりは白くなります。白天目に使われた土はそういった性質のものです。」
これらの天目碗は、かつて日本の上流階級が美的理想とした中国の伝統から脱却していることが分かります。 よく見ると白天目は中国の陶磁器のシンメトリー(左右対称)とは異なり、形は完璧ではなく、確かに歪んでいます。
青山氏は深く茶道を研究しているわけではありませんが、自分の茶碗で抹茶を出すことを楽しんでいます。私の点て方を見たらどんな 茶人でも叱るだろうと彼は冗談を言います。フォーマルな点て方でなくともこの非常に珍しく貴重な茶碗でお抹茶をいただけるのは特別な気分になります。
青山氏は深く茶道を研究しているわけではありませんが、自分の茶碗で抹茶を出すことを楽しんでいます。私の点て方を見たらどんな 茶人でも叱るだろうと彼は冗談を言います。フォーマルな点て方でなくともこの非常に珍しく貴重な茶碗でお抹茶をいただけるのは特別な気分になります。
ここ小名田には3つの古窯跡があり、白天目と同様の焼物とみられる破片が発見されています。 これらの窯は1400年代後半から1500年代中頃にかけて使われていました。「白天目は、戦国時代の織田信長やその後継者・豊臣秀吉、その息子・秀次などの著名人に愛されました。 残された3つの白天目のうち、1つは尾張徳川家、もう1つは加賀前田家が所蔵していたと記録されています。
美しい抹茶碗を制作した職人たちの知られざる物語
歴史的な記録は、しばしば富裕層や有力者にスポットライトを当てがちで、少数の特権階級向けにこれらの素晴らしい作品を作るため、身を捧げた名もなき職人たちの血がにじむような努力はあまり語られません。 しかし焼成中の澄心窯を見学してみると、職人たちが身をやつして従事した長時間に渡る肉体労働を深く理解することができるでしょう。
この体験を通して、冬の突き刺すような寒さと夏のうだるような暑さに耐えながら、古い時代の陶工たちが直面した過酷な労働条件について想像出来るでしょう。 現在まで伝わる大名物と言われる白天目なども当時の職人たちの努力の賜物であることを考えると、いっそう感慨深く鑑賞できることでしょう。 (登り窯の詳細については、この記事を参照。)
この体験を通して、冬の突き刺すような寒さと夏のうだるような暑さに耐えながら、古い時代の陶工たちが直面した過酷な労働条件について想像出来るでしょう。 現在まで伝わる大名物と言われる白天目なども当時の職人たちの努力の賜物であることを考えると、いっそう感慨深く鑑賞できることでしょう。 (登り窯の詳細については、この記事を参照。)
notes
The Japanese idiom 心如水 (Kokoro wa mizu no gotoshi) means "the mind is like water". It is derived from the eighth chapter of the Tao Te Ching, an ancient Chinese text, which describes the highest form of goodness as being like water. The idiom is often used to describe a state of mind that is calm, clear, and adaptable, like the qualities of water. Source: Conversation with Bing, 1/13/2024
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